なんでこんな事になっているんだろう。
洪は軽くため息をついた。
目の前には、シャツを破かれてベッドに身を伏せる白人の男。
明らかにアメリカ側のミスだった。
抑えているべき情報を、漏らした。
中国側にとってはどうでもいい情報だったし、ここで嫌味な白人男に恩を売っておくのも悪くない、のちのち、貸しが何かの役に立つ事もあろう、そう思って洪は個人的に漏洩した情報を収拾する手伝いをした。
…その結果が、これか。
洪は再び、今度は深くため息をついた。
自分が莫迦だった。
売り言葉に買い言葉なんて阿呆な真似、いい年してするとは思わなかった。
貸しを作って優位に立ったつもりの自分を、白人男はこうして丸め込むつもりなのかもしれない。
そう思うと腹が立って、“男は初めてなんだ”という白人男を気遣ってやる気など失せて、思わずネクタイを引き抜き、シャツを引き破いてベッドに突き飛ばしていた。
“今回は助かったよ、今度何かある時はそれで埋め合わせるから”
のどかな初夏の午後、程よくクーラーの聞いた店内で、綺麗な白人男と向かい合わせでコーヒーを啜る。あまりに平和で、頭の中が腐ってゆく気がした。
“今回の僕の働きを考えたら、それは当然だろ?埋め合わせの情報は当然だけど、僕個人に報酬をくれる気は無いの?”
白人男の部下の、犬のような坊やに向ける眼差しとは違う、もっと冷えた視線で笑顔の仮面の下から白人男に覗かれて、洪は気分が悪くなった。
あの坊やはこの白人男の視線を嫌っているようだが、あの程度で音を上げていたら、今自分に向けられている、蛇のような眼差しを受けたらどうするのだろうか。妙に不安定なところのある坊やだから、あの坂下とかいうごつい男がお守りをして慰めるのだろうか。
そんなことを洪は頭の片隅で考えつつ、可愛らしく小首をかしげて白人男を見上げた。
別に、何を欲しいわけではない。
苦手な男と向かい合い、無言でコーヒーを啜るなどという気味の悪い事態を避けたかっただけ、適当にでも会話を続けたかっただけである。
すると、洪の予想を裏切って、白人男はさらりと言い放ったのだ。
“個人的な報酬ね…僕のバックバージンは?”
あとはそれこそ言葉どおり売り言葉に買い言葉だ。
もとより男色を公表してはばからない洪である。
ここで躊躇しては男が廃るよ、とでも言いたげな白人男のからかい混じりの微笑が業腹で、思わず“じゃあそれで手を打ってあげるよ”と返してしまった。
「なんだ、こういうのがシュミなのか?」
引き破られたシャツの残骸を長い指で優雅につまみ上げ、白人男は洪を見上げる。
「帰るときには君のシャツを貸してくれよ?流石の僕も、公衆の面前で羞恥プレイなんて耐えられないよ」
それでも国の命令とあらば裸で逆立ちする位の事は厭わないだろう男はそう言って笑った。
「ま、多少のプレイなら構わないけれどね。僕だって子供じゃないし。後に響くような傷とかは勘弁だけど」
蛇の目で洪を射抜きながら、にやつく。僅かに肌に張り付いているシャツの残骸を自らの手で剥いでゆく。
洪はこのいけ好かない白人男に圧倒されている気がした。ムカついた。そして嗜虐心がうずきはじめる。この傲慢な男を怯えさせたい。
「傷がつかなきゃ、あと、人前じゃなきゃ何してもいいんだね?」
「…ああ、それと、あと痛いのもパスしたいな」
白人男の声音はあくまでのんきだ。何処までが演技なのかはわからないが。
「じゃ、こういうのは?これくらいなら平気でしょ?」
ベッドヘッドにネクタイを回し、そのまま両手首を拘束する。
「…やっぱり洪、こういうのシュミなんだ…へぇ」
男の口調は変わらない。
洪は無言で男の下衣を剥いでゆく。
「注文多くて悪いけど、もう一つ、いいかな。ゴムは付けてくれよ」
ランチに、あとスープも付けてくれるかな、とでも言うように軽い調子で白人男が付け加える。
「あ、洪が病気持ってるとか、そんな失礼な事思ってるわけじゃないよ。ただ、僕は下痢になりたくないんだ」
世間話をしているような気楽な表情で白人男は足元の男を眺めながら微笑みかけた。
裸にされることへの羞恥は、全く感じていないようだった
かなり綺麗な男だとは思う。
背が高く、当然足も長く、まつ毛までしっかりプラチナブロンドで、青緑の瞳。
この男の性格を知らなければ、コレは楽しい状況だったのかもしれない。
しかし、いかんせん、お互い無駄に相手を知りすぎている。
相手がどんなに腹黒くて策略家か、身をもって知っている。
気を抜くと頭から喰われる。飲み込まれる。
楽しいセックスにはとうていなりそうになかった。
「あ、ふ…ッ」
白人男は声を殺そうとすらしない。
感じるままに嬌声を上げる。
程よく筋肉におおわれた身体はこれまたやはり白くて、目に痛い。
下腹部を指でなぞってやると、胸板がびくびくと波打った。
「…下も、ブロンドなんだな」
洪の素直な感想に男は軽く鼻をならす。
「当然だろ…ついでに、髭も脇もブロンドだよ」
「へぇ」
能天気な会話を交わしながら、次第に愛撫を激しくさせてゆく。
「初めて、なんだよね?」
「ああ、抱きたい男も、抱かれたい男もいなかったから」
「そりゃ勿体無い。エディ、人生の快楽の半分を無駄にしてるよ」
「そうかな?じゃ、洪、今日僕に、知らなかった残り半分の快楽ってヤツを教えてくれよ」
「君相手じゃ、僕は役不足かもしれないけどね」
「そういや、洪は女相手、駄目なのか?」
「…そうじゃないけど」
「女を抱かないなんて君、それも、人生の快楽の半分を無駄にする行為だよ」
白人男はくつくつと忍び笑いを漏らした。
「やっぱり…上手いな、洪…」
指で局部を行ったり来たりなぞる洪に、エディは驚嘆の言葉を洩らす。
「伊達に…ッ…東京姫、なんて、呼ばれてッ、るわけじゃないんだな…」
「…その名前知ってるんだ?」
「そりゃその位は…ァ、アウッ」
他国の諜報員のコードネームを知っている事を、“その位“で済ますエディが憎たらしく感じられて、洪は強く手のひらの中の肉塊を握り締めた。
痛みに身体を震わせ、堪えるように背を丸めようとするところを、強引に身体をひっくり返し、うつぶせにさせた。
尻だけを高く上げさせ、脚を肩幅位に開かせる。
中途半端な四つんばいの格好は、普段の高慢な彼からは到底想像できないだけに、洪の優越感をくすぐった。
「ホ、洪…ッ」
性器から手を離したものの、まだ痛みが残っているのだろう、眉をしかめながらエディがらしくもなく不安げに背後の洪の名を呼ぶ。
それに満足して、洪は優しく彼の背筋を撫でてやった。
「大丈夫、いきなり突っ込んだりしないから…」
自販機で買ったローションを指に絡め、ゆっくりとほぐしてゆく。
「今のところは、気持ちイイもんじゃあ…ない、な…」
指がゆっくりと後孔を揉みほぐしている感触にエディはそう感想を洩らす。
「どんな感じ?」
「…キモチワルイ」
「まあ…初めてだしねえ。仕方ないよ」
あまり痛みを与えないように慎重に指を進める。
ゆるゆると体内に侵入する洪の指をリアルに感じて、エディはシーツに額をこすりつけてその感覚に耐えた。
「…指三本入るまで、入れないから心配しなくていいよ」
「…信頼してるよ」
どうでもいいような事を言い合いながら、洪はそろそろと指を回す。締め付けが柔らかくなったところでもう一本増やす。
おそらく結構な違和感と痛みであろうのに、エディは弱音の一つも吐かない。
だが、特に労わってやる気も無いので、優しい言葉の一つもかけずに黙々と洪は穴を広げる作業を続ける。
「…三本目も、慣れてきたね」
かなりの時間をかけて三本の指を受け入れるまでに穴を広げ、洪はそうエディに声をかける。
「ああ…気持ち悪いのは相変わらずだけどね…」
ため息のような吐息を一つ大きくついて、エディは洪に言葉を返す。
「そろそろ、洪、入れる?」
初めて三本の指を体内に受け入れているとは思えない冷静さでエディが続ける。
「ああ、もう、入れてもエディそんなに痛くないと思うし…」
エディがぐるりと首を捻って洪を見た。
「洪、勃って無いのに?」
「…仕方ないだろ…いくら僕でも、君相手に欲情なんて、本当はしないんだからさ」
「ヤだな〜、傷つくな〜、ボク、結構可愛いって自信あったんだけどな〜」
歌うような口調でエディが軽口を叩く。
「で、どうするの?」
「仕方ないよ。手で勃たせるさ」
「…ふーん…」
洪の返事に彼特有の冷たい微笑を瞬間浮かべて、エディは提案した。
「ねえ…僕が勃たせてあげようか」
なんでこんな事になっているのだろう。
本日何回目かわからないセリフを頭の中で再生しながら、洪は己の下半身に顔を埋める金髪男を見下ろした。
「ん、んんぅ…」
口に洪を含み、女のような鼻にかかった甘え声をあげながら唇を上下させる。
ちろり、と洪を見上げる金のまつ毛に縁取られた大きな蒼い瞳は、この男の性格すら知らなかったらそれはそれは色っぽく感じられるのだろう。しかし、エディという人間を知っている者からしたら、その流し目はただただ相手の弱点を見つけようとする蛇の目のようで、到底性感とはかけ離れてしか感じられない。
エディは洪を見つめながら唇と舌を使って洪を煽る。
「咥えるの、初めてなんでしょ?…その割に、巧いね」
「…いつも女にしてもらってる事、思い出しながらやってるのさ」
くすくすと楽しそうに笑ってエディが答える。
「へえ…」
どんどん褪めてゲンナリしてくる気分とは裏腹に、エディの的確な奉仕によって身体は確実に昴まってゆく。
唇の端から零れ落ちる涎を拭おうともせず、舌でぐりぐりと洪をくじるエディが、ふと口から洪を抜いて顔を上げた。
「なあ、コンドームどこ?」
洪から手渡された四角い包みを咥え、エディは片手でそれをピッと破る。
何をするのか、と洪は無言で彼を見つめた。
にやにや笑いながら、まだ丸い円状のコンドームを上の歯と下の歯で支えて咥え、再び洪の局部に顔を寄せる。
「何を…ッ!?」
驚いて洪が止めるより早く、エディが唇だけを使ってゴムをはめた。
「…こういうやり方もあるのさ。結構、面白いだろ?」
長くしなやかな指でピン、っと洪をはじいてエディは笑った。
「…さすが、エディ…こういうやり方は知らなかったよ、僕も…」
皮肉を言う気も失せて、洪は素直にエディを褒めた。
「僕は結構繊細なんだから、優しく、ね?」
再びうつぶせになり、尻だけ高く上げた奇妙な格好をとったエディが、おどけた口調で洪に言葉をかける。
「判ってるよ」
ローションを尻と自身に擦り込む。
逃げぬようがっちりと腰を抱え込み、穴にあてがうと、ゆっくり侵入を始める。
指とは違う大きさに押し出されるように、ホウとエディが息を吐く。
「力、抜いて…」
じりじりと狭い穴の中を進んでゆく。
「バージンだから…慣らしても、やっぱり、キツイね…」
ようやく全てを収め終え、大きく息をつきながら洪がエディに話しかけた。
「そう?…僕は、思ったより痛くなくて、助かってるけれど…」
強がっているのか本当に痛くないのかは知るよしも無いが、エディ自身がそう言うならば、もはや遠慮は要らない。
片手でエディの頭をシーツに押し付け、もう片手でエディの性器を扱きながら、洪は思うままに腰を動かした。
悲鳴とか制止の言葉を白人男が少しでも口にしたならば、すぐさま身勝手な責めを止してやるつもりでいたが、金髪男は無言で耐えていたので…どころか、自ら腰を押し付けてすらきたので、そのまま腰のグラインドを続けた。
相当に痛むだろうのに、逃げるどころか腰を寄せ平気な演技をする白人男に、同じ男として感心はしたが、優しくしてやる気にはならなかった。
むしろ腹が立って、いっそう激しく中を抉った。
でも、いくら痛みを与えても、事後にはきっと“悦かったよ”とあの余裕の笑みで返されるのだろう、と洪は思い、今度こそ本当に気分が萎えかけた。
しかしここで萎えたらそれこそいけ好かない金髪男に失笑されるであろうことは判りきっている。いっそのこと頭の中を白紙にして、目の前の白い肉体だけ眼に刻みつけ、本能のままに放出へと身体を動かした。
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…めちゃくちゃですな。めちゃくちゃです。ごめんなさい。がんばってこの程度です。しかも、見返すのが嫌で、読み直してません。従って、誤字脱字はもとより、話の内容が少しおかしいかもしれません。
ってかすでに、エディと洪、こんな性格じゃあ無い気がします。もうわけ判りません。限界です。ひい。
こんなリクするなよ。(いやでもちょっと楽しかったけどさ)
途中で力尽きたので、無理やり終わらせてしまいました。頑張ったから良いでしょ…ね?ね?(必死に同意を求めてみる)
ちなみに、エディが洪に口でゴム付けてあげるところは、判る人にだけ判る、アレがモデルですよ!!(笑)ネタがコアすぎですが。
で、最後に。苦情は一切受け付けません!!(笑)…でもご感想は待ってます。
それに、苦情ではなく批評ならカモンですので。
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