自滅志願 







「そんな…馬鹿な法律があるかっ!!」

 部屋に悲鳴じみた怒号が満ちた。メンバー達は皆、憤りと驚きと嘆きで顔を歪めていた。否。ただ一人。その部屋の上座に位置する場所に座る男。その男だけは一瞬、下を向いて、唇を歪めて酷く淫猥に笑った。側にいる一人だけ、その微笑に気付いたが、他は誰も気付かなかった。



 
BRU法。大人に対して宣戦布告したテロリスト集団“ワイルドセブン”を最も残酷な方法で攻撃する法律。
 中学生を使い、七原秋也を殺させる。3日以内に殺さないと、首輪が爆発する。



「さっき、笑っていたでしょう」
 会議を終え、自室に戻った秋也を、男は追いかけた。あの笑みに気付いたたった一人。恐らく、この集団の中で一番秋也を理解している男。参謀的存在。
「笑ってなど、いない」
 いつもの鉄面皮で抑揚なく秋也は答えた。
「いいえ。笑っていました。僕が気付かないとでも、思いましたか」
「…オマエの気のせいだろう」
 言って部屋から男を締め出そうとするのを、腕を掴んで止める。
「気のせいじゃない。確かに笑いましたよ。あなたは笑った」
 秋也は、つかまれた腕を振り払う事もせず、上目遣いで男を見上げ、嘲笑を浮かべた。
「笑ったから?それで、何だと?俺は自分の馬鹿さに嫌気がさして、それで自分をあざ笑っただけだ」
「あなたが馬鹿。そうは思えませんね。あなたは馬鹿じゃない」
 ほんの数年前には持っていなかっただろう、恐ろしいほどの威圧の視線で秋也は男をにらみ付けたが、男は怯むことなく続けた。
「あなたは、こうなる事を予測していたでしょう。政府側が、こういう卑劣な方法を使うかもしれない事、バトルロワイアルを体験していない他のメンバーには予測もつかないだろうけれど、アレを体験しているあなたになら、判っていたはずだ。どこまで政府が愚劣なのか」
「…じゃあ、バトルロワイアルの勝者だったオマエも、予測できていたのか?なら何故、俺の行動を止めなかった?オマエの言っている事は矛盾している」
 男は腕を掴む手に力を込めた。
「わたしは、実のところ、もう日本という国に期待していません。だから、どうなろうと知ったこっちゃない。ただ、あなたには興味がある。だから、あなたのやりたい事に否やは唱えない。間違いと思っていても、あなたの行くところについてゆく。それだけです」
「…愛の告白みたいだな」
「愛の告白ですよ」
 ひどく真剣な男の表情に、秋也は表情をふっと和らげ、年相応の笑みを浮かべた。
「なら今、俺がオマエにして欲しがってる事を、やれ」
 掴まれていない方の秋也の手が男の股間にのびる。服の上から刺激する。
「今なら、オマエは俺を手に入れることができる…かもしれないぜ?」
 表情の無邪気さとは裏腹に、娼婦の手つきで男を誘う。男は、これが秋也の逃避である事を重々承知していながら、その逃避に手を貸す。秋也は逃避しなければ生きては行けない。
「なあ…俺を、抱けよ」
 秋也の腕が男の首に絡みついた。
 外で犬の遠吠えがした。



「ア…あ、あ」
 秋也は男の上に跨って腰を振る。
 もうとっくに限界を超えているはずなのに、自ら根元を握り締めて快感の檻の中に囚われる。
「もっと…モット、だ…」
 今にも崩れそうな腰を揺らして、秋也は男にねだる。
 キツイ快楽に涙を流しながらせがむ。
「いや…わたしも…そろそろ、限界…ッ」
 男の言葉に秋也は微笑する。
「イイぜ…中でイって」
 秋也の言葉と同時に男が弾けた。秋也も根元から指を外して自身を解放させる。
 何度も痙攣するように身を震わせて、ウットリと男を眺める。
 男は、その視線が自分に向けられていながらも、決して自分を見ているわけは無い事を知っている。
 秋也が、作戦に詰まった時決まっていつも口にする言葉“ああここに三村がいればな”。
 男はこっそり三村という男を調べた。
 秋也のクラスメイトだった。
 バトルロワイアルの被害者だった。
 政府のコンピューターをハックして、秋也のクラスのバトルロワイアルの記録ログを全部コピーした。
 こんな中学生がいるのか、と驚愕した。見事なまでのハッキング技術、盗聴記録と事後の現場検証の記録から、爆弾の知識も相当だった事を伺わせる。あの極限状態で、よくもここまで動けたものだ。秋也のクラスが己のクラスのように、そこそこ平凡な人間しかいなかったら、恐らく三村の計画は大成功していたであろう。
 秋也が事あるごとに三村を引き合いに出すのもおかしくないと思った。
 その時は、だから、それで納得した。
 ある日、書類を部屋に忘れてきた、という秋也の代わりに部屋に資料を取りに行ってあのカセットテープを見つけるまでは。
「な…もっかい、しようぜ?」
 快感の余韻に浸りながらも秋也が淫猥に笑う。
「俺が、復活させてやるよ」
 男の足もとに身体をずらし、大きく口を開けて男を飲み込む。
 慣れた仕草で男を刺激する。
「んう、…む…ぅ」
 秋也は片手で口に収まりきらなかった男の根元を扱きながら、開いた片手で己の胸を弄くる。あまりに卑猥な姿。もう既に秋也は軽く勃ちあがっていた。
「そんなんで、感じるのかよ“ワイルドセブン”」
 男は秋也の髪を撫でながら言葉で辱める。
「反政府テロ集団のリーダーは男を銜えて悦ぶオカマ野郎でした、ってワケだ」
 ひどい事を言われれば言われるだけ、秋也は悦ぶ。
 その習性を知っていて、男は酷い言葉を散々秋也に投げかける。
「ん、んぁ…」
 頬を紅潮させ、秋也は男の先走りを旨そうに舐め上げた。今や、秋也の雄は刺激されてもいないのに硬くそそりたっている。
「…もう離せ…秋也ん中に入れたい」
 言うと、心の底から、本当に嬉しそうな笑顔で秋也は応える。
 身体を男に預けながら、呟く。
「バックで…ヤッてくれよ」



 秋也はバックが好きだ。
 3回やったとして、そのうち2回は後背位を望む。
 男の顔を見なくて済むからだろう。
 己を抱く男が、自分の望む男と錯覚できるからだろう。
 男が秋也の部屋で見つけたカセットテープ、中身は秋也のクラスのバトルロワイアル盗聴記録だった。
 何気なく手を置いたらラジカセのスイッチに触れてしまい、スピーカーから小さな音ではあったが爆発音と銃声が聞こえた時には驚いた。
 中学時代、秋也がロックが好きで、今でもたまに食後など、自室にこもってギターを爪弾いていることから、秋也のカセットは全てロック関係だと思っていた
 それから秋也の部屋に行くたびに、男はこっそりラジカセのスイッチを入れた。3日に1回位の割合で、盗聴記録のカセットが入っていた。
 そしていつも、三村の死の直前…つまり、爆弾の爆発(おそらく三村の作った爆弾であろう)の前までで、カセットは止められていた。
 その時、気付いた。秋也にとって、三村はただの親しい友人以上の関係にあったと。
 秋也がそれまで、時々行きずりの男と寝ていたことは気付いていた。ただの性癖だと思っていた。乱交めいた遊びが好きだった。
 典子さんが悲しげに、“昔はああじゃなかったのよ”と呟くのも見ても、それはただ単に若くて自分の性癖に気づかなかっただけで、それだけのことだろうと思っていた。
 だが違っていた。
 三村と秋也がどれほどの関係にあったかは判らない。
 もしかすると、秋也の一方的な想いで、キスもしていなかったのもしれない。
 だけど、バトルロワイアルなんていう残酷な遊戯で三村を奪われた秋也は、そのあまりの理不尽さに三村を忘れることも、思い切る事も出来なくなった。
 それを知って秋也に自分と寝る事を提案した。
 カセットテープを聴いてしまった事を謝り、自分が持っていた好意を伝え、行きずりの男なんかじゃなく、リスクの少ない自分と寝ることを勧めた。
 秋也は同意した。しかし言った。
「俺は、オマエの望むような関係にはなれないぞ。身体だけだ…それでも、いいか?」
 男に異存はなかった。
 相手の意識が変わらない限り、もとより死者に勝てるわけが無いのだから。



「あ…みむ…らぁっ…」
 いつからか秋也は、感極まると三村の名を呼ぶ。
 最初は行為の後、すまなそうに謝ってきた。
 男が笑って赦すと、そのうちだんだんエスカレートしてきた。
 謝りもしなくなった。
 それは諦めなんだろう、と男は思う。
 男に捨てられても秋也はきっと何も感じない。他に自分を抱いてくれる人間を探すだけだ。その事を、何度も抱かれるうちに気付いたのだろう。そして、他人と正常な関係を結ぶことを諦めたんだろう。自分がどう思われようと、もう言い訳する気も無いのだろう。
「みむらっ、みむらぁ…っ」
 男は、全て理解していながら、それでもやはり自分以外の男の名を呼ぶ秋也に憤る。
 憤りを己の中心に集め、秋也にぶつけてやると、秋也は嬉しそうに啼いた。
「アッ…そこ、そこイイ…ッ」
 自ら腰を男に押し付け、頭を振る。秋也はバックの方が感じる。
「だいすきっ、だいすきだよみむら…ッ」
 秋也は死者の名を呼ぶのを止めない。
 だから男は秋也の中を抉るのを止めない。



「…じゃあ、オヤスミ」
 行為のあとの倦怠の中、男は服を調えて部屋を出ようとする。
 しかし振り返って、秋也に問いかけた。
「あの時、死ねばよかったと、思っていますか?」
 一瞬の沈黙。
「思ってねェよ。思ってねぇ」
 10分前まで動物以下の浅ましさで鳴いていたとは思えない冷静な声音で秋也が答える。
「うそつき」
 男は、その一言に、せめてもの自分の嫉妬と羨望と悲しみを込めて、そのまま部屋を後にした。
 月が綺麗だった。





   =================
 BRU見てません。でも書きます。ってか、見る気ありません。ストーリー聞いただけで、”うげ”と拒否反応が出たので。
 原作の秋也なら、絶対あんなことはしません。…と思います。ここまで主人公馬鹿かよ?と。
 だから、これは浄化です。こういう事であれば、秋也の変貌は理解できるな、共感できるな、と思いたいがために書きました。
 結果、秋也半分狂っちゃってますが(笑)
 この秋也は、色んなものを失った、あのバトルロワイアルの中に戻って、そこで死にたいのです。
 だからテロを起こすのです。彼にとってBRUは予測の範囲内、むしろ希望で、あのバトルロワイアルとよく似た、中学生が殺し合いをする状況で己が死にたい、殺されたいと思っているから、自分の思いどうりにコトが運んで冒頭笑っているのです。狂ってしまった秋也には、そのため誰が死のうが、誰が犠牲になろうが、もう構いやしないのです。だからテロったのです。近衛は、狂わせないと、秋也をテロには持っていけません。だから深作組にプチ疑問(笑)
 秋也の相手の男はもちろんオリキャラです。可愛い男です。抱いている時だけ、敬語じゃないし名前も呼べる、なんて、本当に可愛い男です。
 でもきっと報われることは無いのでしょう。
 最後に。エロ薄くてゴメン。
 

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